土地に建物を建てて生活するには、上下水道やガス・電気などのライフラインが不可欠です。土地が公道に面していれば公道下に埋設してある配管から支管を自己所有地に引き込めば足ります。しかし、自己所有地が公道に面していない場合には、公道下の配管から他人の土地の下を通して支管を引き込まなくてはなりません。すでにある建物の下に配管を通すことは困難ですから、自ずと公道に繋がる私道の下に支管を引き込むことが多くなります。
支管の埋設及び工事は私道を利用、掘削することになりますので、私道所有者の承諾が必要となります。私道所有者の承諾が得られれば問題ありませんが、 様々な理由(理由自体が不明なものから、嫌がらせ、不当な金銭要求など)により承諾を得られないといったトラブルが生じやすいものです。
私道所有者の掘削の承諾が得られない場合
では、私道所有者の掘削の承諾が得られない場合、支管の埋設のための掘削工事は一切出来ないのでしょうか?
実際の裁判例では私道所有者の承諾がなくても埋設掘削を認めた例がいくつもあります。その法的根拠は相隣関係について規定する民法209条、220条、221条、排水に関する受忍義務等を規定した下水道法11条1項などに求められます。
下水道法11条1項は「・・・排水設備を設置しなければならない者は、他人の土地又は排水施設を使用しなければ下水を公共下水道に流入させることが困難であるときは、他人の土地に排水施 設を設置し、又は他人の設置した排水施設を使用することができる。この場合においては、他人の土地又は排水設備にとって最も損害の少い場所又は箇所及び方法を選ばなければならない。」と定められております。
また、民法220条で高地の土地所有者は他人の低地を通じて下水道等に至るまで余水(雨水など)を通過させることができると規定しており(余水排池権)、民法221条では高地の土地所有者は低地の土地所有者が設置した排水管を使用し下水道等に至るまで排水することができると規定しております(流水用工作物の使用権)。これらの民法の規定は高地と低地との間の相隣関係の規定ですが、学説・判例等は、高地・低地間の相隣関係だけでなく、袋地の相隣関係への類推適用も肯定しております。
もっとも、これらの規定は上下水道やガス管の埋設、掘削工事について直接規定した法律ではないため、あらゆる場合に私道へのガス、上下水道の支管の埋設、掘削工事を認めるという根拠になるものではありません。
実際の裁判では、個別的な事情から埋設・掘削を否定した例もあります。
そのため、私道の掘削の承諾を求めるにあたっては、仮に裁判になった場合、過去の裁判例を参考に個別的な事情を踏まえ、埋設・掘削工事を認める判決を勝ち取れるのかを見極めたうえで、交渉を行う必要があります。
具体的なポイント
- 他の場所に埋設する方法がないか?
- ライフラインをつなげようとする建物は建築基準法に準拠しているか?
- 私道の形状、状態
解決方法
- 話し合い
- 民事調停
- 裁 判
話し合い
まずは、当事者間で話し合いということになります。通常は、建物を建てる建設会社だったり、不動産仲介業者の担当が私道所有者に対し掘削同意書に承諾してもらい署名、押印(認印で問題なく、実印は不要です。)をもらうよう交渉することになると思います。
そこで、私道所有者の承諾が得られないと、建築もストップしてしまうことになります。
実際には過大な承諾料を要求されたり、理由も特に述べず拒否されたりなどする場合があります。
民事調停
そこで、同意書にハンコがもらえない場合は、多くの場合、簡易裁判所へ調停を申し立て、裁判所の調停委員の進行の下に協議を行うことになります。
もちろん、いきなり裁判を提起することもできるのですが、私道所有者とは近隣同士の問題であることも多く、なるべく穏便に済ますよう考えてか訴訟は避ける傾向にあります。
民事調停での進行ですが、一般論としては、下水道法11条や民法の相隣関係の規定がありますので、調停委員も掘削を認める方向で調停を進めることになると思われます。
ただし、相手側からは協力金の支払いを求められたり、その他の交換条件(例えば工事の施工時間や曜日の指定、建てられる建物の形状の変更)が提示されたりします。
明らかに過大な要求であれば、調停委員から私道所有者に対して要求額を下げるよう働きかけがなされることもあります。
もっとも、調停は話し合いでの合意を前提としますので、私道所有者が聞く耳を持たなければ調停員としても無理な説得は行いません。
最終的に、相手方からの条件がご自身にとって受け容れられるものであれば調停成立となります。
他方、合意ができない場合は、不調として調停は終了します。
裁判
調停で合意できない場合、残された手段は地方裁判所へ掘削の同意を求める訴訟を提起することになります。
裁判を提起しても、裁判所からは適宜、和解が勧告されるかと思います。裁判所での和解も私道所有者から条件が提示され、妥協点を探ることになるかと思います。
和解が成立すれば訴訟は終了しますが、和解ができなければ判決になります。
判決についてはそれぞれ事情が異なりますので予断はできませんが、請求者側に問題がなければ、掘削が認められる方向での判決になる公算が高いです。