遺言書は書いた方がいいとは思うけど、大した財産もないしなぁ、と思って、遺言書を書かずいる方も少なくないと思います。
そんな方、ぜひ一度お読みください。
遺言書がないとどうなる
人間は誰でも何時か「死」を迎え、相続が発生します。
遺言書があれば、遺言書の内容どおり遺産を分けることになります。もちろん全ての相続人が遺言書の内容に満足するとは限りませんが、大方の場合は親が決めたことだから仕方ないと納得します。
では遺言書が無い場合、遺産の分割はどうなるのでしょうか?
1 相続人間での遺産分割協議
まずは、遺産の分割方法を相続人間での話し合いということになります。
もっとも、民法には法定相続分という規定があることはご存じの方も多いでしょう。
では、相続人間での話し合いと法定相続分の規定との関係はどうなるのでしょう。
結論から言うと、当事者間での取り決めが法定相続分の規定に優位します。つまり、相続人は全員の合意があれば、自由に遺産分割を決めることができるということです。そこで、全員が合意すれば、一人に遺産全部を相続させたり、逆に特定の相続人だけ相続分をゼロにするというということも問題ありません。
多くの場合、遺産が自宅建物と若干の預貯金のみという方が多いと思います。その場合には、家を売って現金に換えない限り分割することはできません。自宅を売らない場合、おのずと相続人のうち一人が自宅建物を相続し、他の相続人は少しの預貯金を相続することがほとんどです。
すべての相続人がそれに納得すれば良いのですが、他の相続人が納得しない場合、家を売るしか方法はありません、そうなると当事者同士の話し合いではどうにもならなくなってしまいます。
2 遺産分割調停
相続人間での話し合いがまとまらない場合、家庭裁判所で遺産分割調停を行うことになります。
遺産分割調停では、専門家や有識者からなる調停委員が相続人の間に立ち、合意ができるよう議論をリードしていきます。その場合、民法の法定相続分に従った分割案が前提となります。
調停で話がまとまるには、どんなに早くても半年以上、長いものだと5年以上かかるものも珍しくはありません。
3 遺産分割審判
大方の紛争は遺産分割調停での話し合いで合意に達します。ただし、その中でもどうしてもまとまらないものもあります。その場合は、審判に移行します。
審判とは裁判とだいたい同じものと考えてもらって良いです。家庭裁判所の裁判官が、それぞれの相続人の言い分を聞いて遺産の分け方を決めます。
この審判の内容に納得がいかなければ高等裁判所に不服申立ができます。さらに最高裁判所への不服申立も可能です。そして、最高裁判所の判断が最終結論となります。
もっとも、最高裁判所への不服申し立ての条件はとても厳しく高等裁判所の判断が覆ることはほとんどありません。そのため、高等裁判所での判断で最終的に決まると言っても過言ではないと思います。
遺言を書く必要がある人無い人
1 遺言を書く必要がある人
逆に遺言を書かなくて良い人とはどんな人でしょうか?結論から言うと財産がゼロの人だけです。財産がある人はもちろん借金の方が多い、もっといえば借金しか無い人も遺言を書いてください。
2 財産がマイナスな人も遺言書を書くべき理由
なぜ、借金の方が多い人も遺言を書く必要があるのでしょうか?それは、すみやかに相続放棄の手続きができるようにするためです。
相続は、プラスの財産だけで無く,マイナスの財産すなわち借金も相続人に引き継がれます。普通の人であればプラスの財産よりマイナスの財産が多ければ相続放棄の手続きをとります。相続放棄ができる期間は相続が発生したことを知ってから3ヶ月以内です。つまり、死亡したら3ヶ月以内に相続をするか、相続放棄をするかを決める必要があります。プラスの財産は家や土地、自動車、現金など形あるものとして残っておりわかり易いですが、マイナスの財産は借用書などの紙切れ一枚です。予め遺言書などに書いておかないと、死後、相続人が気付かないまま3ヶ月が経過してしまうということもあります。
3 特に遺言を書く必要がある人
遺言を書く理由がある人とは、ずばり、将来相続人か遺産分割で揉める可能性が高い人です。
以下に、具体的に紛争になりやすい場合を挙げていきます。このなかで一つでもあてはまったら、将来揉める可能性が高いということです。
財産が沢山ある
自営業の人
借金もある場合・保証人になっている
めぼしい財産が不動産一つ(自宅)しかない
親名義の土地に子が自分で家を建てている
内縁関係にある人がいる
再婚相手に連れ子がいる
特定の人に多くあげたい
相続人が沢山いる
いかがでしたか?一つでもあてはまるところはあったでしょうか?
では、なんでもめるのか? 簡単に説明していきます。
財産が沢山ある
人間は比較的小さな額、例えば10万円くらいなら譲ることはできても、100万円、1000万円と譲る金額が大きくなるほど、自分は損をして他の相続人に譲ることが難しくなります。そのため、財産がある人ほど揉める可能性が高くなります。
では、どれくらいあれば財産が沢山あるといえるでしょうか?金銭感覚は人によって違いますが、500万円くらいが一つの目安かと思います。
自営業の人
自営業用の財産も相続により相続人に引き継がれます。自分の死後、お店をたたむつもりなら別ですが、相続人の一人又は信頼できる従業員に継がせようと考えている人は、店の建物や自動車その他の営業用の財産を承継者に相続させるための遺言が必要です。
借金もある場合・保証人になっている
上にも書きましたが、相続放棄をするかどうかを相続人に判断させるためです。特に保証人になっているということは相続人が知らないことが多く、後で問題となる可能性が極めて高いです。借金だけで無く保証人となっていることも遺言書に明記しておく必要があります。
めぼしい財産が不動産一つ(自宅)しかない
遺産が現金であれば分割は簡単ですが、建物は現物の分割ができません。そうすると、自宅建物を売る売らないで意見が分かれると話し合いは尽きません。
遺言書で特定の相続人に相続させるか、売却して代金を相続人で分けるのかを明確にしておかないと、相続人が揉める原因となります。
親名義の土地に子が自分で家を建てている
建物は子供の名義であっても土地が親名義のままであると、相続により土地だけは相続が発生し相続人間で共有することになります。その際、すでに建物が建っている以上、他の相続人は土地を使うことはできません。
土地を共同で相続した相続人の中には、土地を売って現金に換えて分配すべきと主張する者もでてきます。その場合、建物ごと土地を売るか、建物を解体して土地を売るということになり、建物を所有する相続人とそれ以外の相続人との間で紛争になります。
内縁関係にある人がいる
籍を入れていない内縁関係にある人は相続人になれません。他に相続人がいれば内縁関係にとどまる人は一切相続できません。相続人がいない場合には、特別縁故者として一部分のみが与えられ、残りの大部分は国庫へと帰属してしまします。そのため、内縁関係にある人の生活を守るためにも遺言書に内縁関係のある人に遺贈する旨の記載をしておく必要があります。
再婚相手に連れ子がいる
再婚相手の連れ子は法律上の親子関係はなく、相続人ではありません。そのため、再婚相手の連れ子にも財産を相続させたいと思うのであれば、遺言書に記載しておく必要があります。
特定の人に多くあげたい
老後の面倒を見てくれた相続人については、他の相続人よ遺産を多く受け取れるようにしたいと思う人は多いです。しかし、遺産分割協議で特定の相続人がより多くもらうためには他の相続人の同意が必要です。
同意が得られない場合、調停や審判で寄与分を主張するという方法もありますが、裁判所の取扱では老後の介護に寄与分を認めることは消極的で、認められても僅かな額にとどまります。
そのため、遺言書を作成しておく必要があります。
相続人が沢山いる。
遺産分割協議は相続人全員の合意が必要です。一人でも反対すれば、遺産分割協議は成立せず、あとは家庭裁判所の調停か審判に持ち込まれます。相続人が多くなればそれだけ、反対したり我を通そうとしたりする人が出てくる可能性があります。特に兄弟同士は仲が良くても結婚相手が口を出してきて揉めてしまうということも珍しくありません。
つまり、子供が二人でもそれぞれが結婚していれば結婚相手も含めた4人が合意しないと、話がまとまらないということになりがちです。
まとめ
相続人同士で遺産分割の話し合いがまとまれば良いのですが、こじれると悲惨です。今まで仲の良かった親戚同士が遺産を巡り争うわけですから、3回忌などの法事も険悪な雰囲気の中で行われたり、それぞれが別々に3回忌を行うなんてこともあります。
そうならないためにも、ぜひ遺言書を書いてください。