お隣同士では普段仲良くやっていても、ある日些細なことがきっかけで関係が悪化することがあります。その原因の一つが塀を巡る問題です。
よるあるトラブル事例について説明します。
隣地所有者の塀が自分の土地に越境している。撤去を求めることが出来るか?
塀の越境とは塀という他人の工作物により自己所有地の使用が妨げられている状態ですので、法的には土地所有権侵害の回復のため塀の移築(取り壊し)を求めることが出来ることになります。
しかし、越境が数センチといった程度であれば、裁判に訴えても、完成した塀の取り壊しを求めることは権利の濫用として認められない可能性が高いです。
かといって、越境状態を放置していた場合、越境部分の土地を塀の所有者に時効取得されてしまう危険があります。
そこで、隣地の塀の所有者との間で、越境していることの確認と将来塀の建て替えの際に境界線に合わせることを約束する文書を作っておくことが望ましいです。
隣地との間に塀を作りたいが、費用負担をしてもらえるか?
隣地建物と自己所有地の建物との間に現時点で塀が設置されていないのであれば、費用を折半の上で塀を作ることを請求できます(民法225条1項)。
ただし、その場合でもどのような材質でどの程度の高さとするかなどは協議して決めます。
この協議が整わなければ、高さ2メートルの木塀か竹垣の設置となります(民法225条2項)。
もっとも、最近の塀はブロックやコンクリートの土台の上にアルミフェンスを設置することが通常となっており、木塀や竹垣はあまり見る機会もありません。差額分を自分で負担することにより竹塀や木塀に代えてアルミやステンレス製の塀を設置することができると思われます(民法227条)。
ただし、これは現に塀がない場合の規定ですので、古い塀を建て替えるといった場合には、当然には隣地所有者に費用負担を求めることができません。
その場合は、話し合いの上、塀を建て替えることになります。
塀を設置しようと考えているが、塀は隣と共有がいいのか、単独所有がいいのか。
塀の立て方としては、①両土地の境界線が塀の中心を通るように設置する。②土地の境界線に塀の外面が沿うように一方の土地のみに設置する。という2とおりの方法があります。
前者の場合は塀の設置費用の負担割合で共有することになります。後者の場合は費用も塀を設置した土地の所有者が負担しますので、設置者の単独所有となります。
では、自己の土地に単独所有と境界線上で共有どちらにすべきでしょうか?
共有のメリットは、①塀の構造などにこちらの希望が入れられる。②費用負担が少なくて済む。③塀に割く土地の面積が少なくて済む。といった点です。
①の塀の構造に希望を入れられる点ですが、仮に隣地所有者が隣地に単独で塀を作る場合には隣地所有者が自由に塀の高さや材質を決めることができます。隣地所有者の塀ですので他人は口出しはできません。たとえばコンクリート製で隙間なく、しかも高さ2メートル超といった塀が作られれば自分の土地に日当たりや風通しに影響が出るこは必至ですが、これを格子状のフェンスにしてくれと要求はできません(せいぜい高さを2メートル以下にしてもらう程度かと思います)。
塀を共有とする場合は高さや材質は協議の上決めることになりますので、日当たりや風通しを確保したいと考えれば、塀の構造はアルミの格子状のフェンスとする、といったような要望を出して、自分の意見をある程度反映させることが可能です。
②の費用負担が少なくて済むことについては、費用は双方で折半となりますので、半額で済むことになります。
③塀に策面積が少なくて済むと言う店ですが、東京都内のような土地の価格が特段に高く小さな土地を所有し合っている場合を除けば、大したメリットではないかと思います。
逆に、共有のデメリットは、自分一人では塀の仕様やその後の処分について決められないと言うことです。
前に説明したとおり、塀を建てる際にどんな塀(高さ、材質、色・・・)を建てるかを協議して合意する必要があります。
さらに、一旦建てた塀の撤去や立替には他の共有者の同意が必要となります。また、補修についても共有者と相談の上で進めていくことになります。
近隣関係が良好であれば良いですが、将来、持ち主が変わったりすればどうなるか分かりません。
そうなると、いちいち協議が必要な共有はやっかいな問題を抱え込む可能性があります。
単独所有のメリットデメリットは共有の場合の裏返しです。
単独所有のメリットは自分で自由に塀の構造を決められることです。プライバシーを重視したいのであれば、コンクリート製の塀で完全に隣地からの視界を遮断してしまうことが考えられます。また、管理も自分の判断だけで行うことができます。
逆に単独所有デメリットは塀の設置及び維持にかかる費用は全て自己負担となることがあります。また、自分は日当たりや風通しを考慮して自己所有地部分に格子のフェンスを建てても、隣地所有者も隣地部分にコンクリート製の塀を建ててしまうといったこともあり得ます。
では、共有と単独所有はどちらが望ましいのでしょうか?
金銭的な問題がないのであれば、自己の土地に単独で塀を建てることが将来のトラブルを抱えこまず望ましいと思います。
最近ではそれぞれの土地所有者が自分で塀を建てる例がほとんどです。
ただ、単独で建てる場合においても、どのような構造(高さ、材質、色等々)にするかは隣地所有者と話し合いをした上で塀を設置することが、トラブルを防止する観点からは重要です。
境界線上にある塀は誰のもの?
土地の境界線上に塀が設置してありますが、老朽化して修繕が必要となっています、誰が費用を負担すべきかという問題が生じます。
結論から言うと塀の所有者に修繕する責任があります。
そこで問題となるのか塀の所有が誰に帰属するかですが、最高裁判所の見解によれば、費用を負担した者ということになります。費用負担者が誰であるか分からない場合には共有と推定されることになります(民法229条)。
なお、民法229条が土地とは別個の所有対象と認めていることから境界上の「境界標、囲障、障壁、溝及び堀」は土地に付合しないとするのが民法の法意と解されます。
さらに老朽化が進み建替えが必要となった場合、塀の撤去費用については塀の所有者が負担しますが、再築費用については協議の上、折半して再築するか、それぞれが自分の土地内に新しい塀を作ることになります。
話し合いで合意できればよいのですが、話し合いが付かないと境界上にある塀には手を付けず、それぞれが自分の土地内に塀を建てるといったことも起こります。
つまり、本来1枚あれば足りるはずの塀が3枚並ぶといった、おかしな状態になってしまうこともあります。
隣地所有者が塀を立て替えたいとして費用の半分を負担して欲しいと言ってきた。負担しなくてはいけないか?
まず、塀が誰の所有かを確定する必要があります。
塀を建てたのが誰であるかを昔の資料などで特定できれば、費用を出した人の所有と言うことになります。そのような資料がない場合は、隣地の土地内にあれば相手の所有と言うことになりますし、土地の境界線上にあれば双方で共有ということになります。
まず、隣地所有者の所有と言うことになれば、こちら側が費用を負担する必要はありません。逆に、自己の所有ということになれば自分が全額費用を負担することが原則となります。
では、共有の場合どう考えるべきでしょうか?
塀が老朽化し地震等で倒壊の危険があるという場合には、少なくとも撤去費用は負担せざるを得ないです。
ただし、再築費用については別問題です。
従前どおり、境界線上に立てるのであれば双方で費用を分担と言うことになります。
他方、塀の共有を避けるのであれば、一方が自己の費用で塀を作るか、それぞれが費用を支出し、双方の土地に塀を作ることになります。
共有にするか、一方か、それぞれが建てることにするかは、話し合いの上で結着をつけることになります。
何の相談もなく境界線上に塀を建てて費用を請求してきた。払わなくてはいけないか?
相手が一方的に作ったものですので、費用を負担する義務はありません。ただし、塀は相手方の所有となります。
なお、境界線上に塀があるということは塀の厚みの半分は自分の土地に越境している状態ですので、法律上は所有権侵害を理由に塀の移設や収去請求ができます。もっとも、民法255条、226条が塀の設置を求めることが出来ると規定されていることとの関係から、裁判をしても収去請求まは認められないという判断がされる可能性もあります。
相手土地の境界に沿って塀を建てられ、自分の敷地が日陰になってしまった。どうにかできないか?
原則的には、自分の土地にどんな大きさ、材質の塀を建てるかは塀を設置する人が自由に決められます。
したがいまして、隣地に塀が設置されたことにより、ある程度の日照の低下や風通しが低下することは受忍せざるを得ません。
ただし、塀が2メートルを越え、日照が著しく低下したなどの場合には、一定の高さより上の部分を収去するように求めることが出来る場合があります。
塀を巡るトラブルで、隣地所有者と話がまとまらない。どういう方法で解決したらよいのか?
近隣関係のトラブルの多くは裁判所には持ち込まれず、当事者同士の話し合いで解決されてます。塀を巡るトラブルも同様です。
しかし、当事者同士の話し合いですと、どうしても言いたいことが言えなかったり、声の大きい方が主張を通し、気の弱い方が泣き寝入りするということも多いと思います。
そういった場合には、第三者に間に入ってもらうか、法的な手段に委ねることになります。
では、法的にはどのような解決手段があるでしょうか?
時間的な余裕のない場合には裁判所に建築差し止めの仮処分を申し立てる方法があります。たとえば、相手が明らかに違法な塀の建築をしているのであれば、裁判所の仮処分決定により塀の建築を一時停止させることができます。特に、建築中の塀が土地の境界をはみ出している場合、塀が完成してしまってからでは解決方法にも限りがありますので、塀が完成する前に建築を止める必要があります。そのような場合には仮処分を行うことになるかと思います。
逆に、自分の土地に塀を建てることについて、妨害や嫌がらせをされたりする場合にも、妨害禁止の仮処分を申し立てる方法があります。
この仮処分の難点としては、弁護士に依頼せざるを得ず費用がかかるという点です(法律上は弁護士に依頼する必要はありませんが、手続きが複雑ですし時間的余裕もありませんので、一般の方が本などで勉強しながら手続きを行うことは難しいと思われます)。
急を要しない場合にお勧めなのは、簡易裁判所での調停手続きを利用する方法です。費用も低額ですし、専門家や有識者からなる調停委員が双方の言い分を聴きつつ、話し合いをまとめるよう手続きを進めます。弁護士を付けなくても対応可能です。
この調停の難点は、調停が話し合いでの解決を目指すという性格上、話し合いが付かない場合は不調として終了してしまいます。また、そもそも最初から相手方が調停に出席しないこともあります。
その場合は裁判という方法で結着することになります。