敷金の預かり証を発行しないと言われたけど、いいの?
賃貸借契約を締結すると東京であれば敷金を1~2ヶ月分を差し入れることが相場です。そして、一般的には、礼金や前家賃(当月分の日割り家賃)については領収証、敷金については預かり証が発行されます。そして、賃貸借契約が終了して建物を明け渡した後に敷金の返還を受ける際に預かり証を返還します。
しかし、希ではありますが、そもそも敷金の預かり証は発行しないという大家(不動産管理会社)もあります。
発行しない側の言い分としては、銀行の振り込み手続きにて敷金の支払いを行っている場合は、振込票が発行されたり銀行口座に入出金の履歴が残るから、特に預かり証を必要はないというものであったり、これまで会社内の慣習として預かり証を出していないなどがあります。
また、実質的な理由としては、賃借人が預かり証を紛失するなどして、預かり証が一人歩きして第三者に悪用されるなどの危険を予防したいということもあったり、さらに、敷金の預かり証は印紙税法別表第一の第17号の2文書(売上代金以外の金銭の受取書)に該当するため、敷金が5万円以上の場合は印紙の貼付義務があることから経費を節約したいということもあるようです。
しかし、敷金を払う側としては、少なくない金銭を交付したにも拘わらず、なにもなし、というのも釈然としないものです。
実際のところ、賃貸人は預かり証を発行する法的義務はあるのでしょうか?
民法486条では「弁済したものは、弁済を受領した者に対して受取証書の発行を請求できる」と定められています。ここでいう「弁済」とは債務の内容にしたがって,現実に給付をなすことをいいます。そこで、敷金の交付が「弁済」にあたれば、「預かり証」との名称は置くとしても受取証書の発行義務があります。
では、敷金の支払は「弁済」にあたるのでしょうか?
法律上、敷金とは、不動産の賃貸借の際、賃料その他賃貸借契約上の債務を担保する目的で賃借人が賃貸人に交付する停止条件付返還債務を伴う金銭とされます。すなわち、敷金は賃貸借契約に従たる敷金契約に関するものとされます。そして、敷金契約は要物契約とされ、敷金授受の合意と敷金の交付により成立するものとされます。
そのため、敷金の支払は敷金契約の成立のためのものであって、敷金契約に基づく債務の履行として支払われるものではないということになります。
したがって、敷金の支払いは「弁済」にはあたらず、民法486条受領証書の交付義務はないことになります。
以上を総合すると賃貸借契約後敷金を払った後で預かり証を発行するよう要求しても、法律上は応じる義務はないことになります。
なお、賃貸借契約終了後、敷金の返還を受けた場合には、法律上「弁済」にあたりますので、受け取った側は受取証書を発行する義務があります(一般的には賃貸人側が用意する受取証にサインすることが多いとは思います)。
預かり証が発行されない場合に注意すべきこと
敷金は、賃貸借契約が終了して建物を明け渡した後、賃貸借契約に関する一切の債権(未払賃料、原状回復費用)充当後の残額の敷金について返還請求ができます。
ここで、揉めずに敷金が返還されれば問題ないのですが、揉めると返還を求めて裁判ということもあり得ます(現在では、簡易裁判所には簡単な書式が用意されており法律の素人でも簡単に裁判が起こせるようになっています)。
その際には、敷金交付契約が成立したことの証明として、敷金を支払ったことの証拠の提出が求められます。そのため、敷金を振り込んで支払った場合は銀行の発行する振込票を保管しておく必要があります。また、直接手渡しで支払う場合には、領収書や受取書をもらっておく必要があります。